はじめに|「もう限界かもしれない」そう感じた夜に
子どもを大切に思っているのに、なぜかイライラが止まらない。 どんなに深呼吸しても、どんなに我慢しても、感情が爆発しそうになる。
「怒鳴ってしまうくらいなら、無視した方がマシかもしれない…」 「こんなふうに思ってしまう私は、お母さん失格なんじゃないか…」
そんな思いが、心のどこかでよぎったことはありませんか?
この文章は、虐待をしたいわけじゃないのに、“虐待してしまうかも”と思ってしまうほど追い詰められたことのあるすべての母へ向けたものです。
それはあなたが悪いからじゃない。 あなたが“それだけ苦しかった”というサインなのです。
私自身の話|「怒りたくないのに怒ってしまう」
私にも、あります。
毎日必死に育児をして、気を抜く暇もない。子どもの泣き声、わがまま、無言の圧力。 そんな中で、ある夜ついに私も、我を忘れて子どもに怒鳴ってしまったことがありました。
「うるさい!!」 「なんで言うこときかないの!?」
そして我に返ったとき、泣いている子どもを前に、膝から崩れ落ちました。
「私は…この子を傷つけてしまった」 「私は、もう母親失格なんだ」
その日は眠れず、ただただ「このままじゃ本当にいつか…」という恐怖と自己嫌悪に襲われ続けました。

虐待の定義と“ギリギリのライン”
まず、誤解されがちな“虐待”の定義について知っておいてほしいことがあります。
厚生労働省による虐待の種類(参考:厚生労働省「子ども虐待防止対策」)
- 身体的虐待:叩く、蹴る、強く揺さぶる など
- 心理的虐待:怒鳴る、無視する、脅す など
- ネグレクト(育児放棄):食事・睡眠・衛生などの放置
- 性的虐待:性的な行為や言動を強要 など
「怒鳴る」「長時間無視する」など、あなたが“育児でよくやってしまう”と感じていることも、実は心理的虐待に該当する可能性があります。
でも、ここで重要なのは“そういう行動をしてしまったこと”ではなく、そこから「変わりたい」「立ち止まりたい」と思ったこと自体が、回復のサインだということです。
たとえば、
- 子どもがご飯をこぼしてしまったときに「もう勝手にすればいい」と声を荒げてしまった
- 疲れて帰ってきた瞬間に「ちょっと待って」と言いながら、30分以上子どもを無視してしまった
- イライラが限界を超えて、子どもに「うるさい!」と怒鳴り、その場を立ち去ってしまった
こうした日常の“ほんの一瞬のズレ”が、後から心に重くのしかかってくる。
でも、そうして「私、このままでいいのかな」「なんとかしたい」と感じているあなたの中には、すでに“立ち直る力”が備わっています。
誰もが一度は限界に近づく瞬間を持つものです。 大切なのは、「もう戻れない」と思うことではなく、「まだここからやり直せる」と思える気持ちを持ち続けることです。

虐待の一歩手前にある“限界のサイン”
こんな兆候が増えていたら、それは**「もう限界」のサイン**かもしれません。
限界サインのチェックリスト
- 夜中に子どもの泣き声を聞いて、体がビクッと反応する
- 朝起きると、すでに疲れている
- 子どもの要求が“責められているよう”に感じる
- 何をしても「ありがとう」と言われないことにイライラする
- 子どもの笑顔が「嘘っぽく」見えるときがある
- 「このまま逃げたら楽になるかも」と想像してしまう
これらの感情や反応は、あなただけが感じているものではありません。
育児を真剣にやっているからこそ、すべてを自分の責任だと思いすぎてしまう。 その結果、自分をどんどん追い込んでしまうのです。
「子どもが癇癪を起こすのは私の育て方が悪いから」 「毎晩ちゃんと寝かしつけられないのは私の怠慢だ」 「怒鳴ってしまうのは私の人間性の問題だ」
そんなふうに、自分を“責める対象”にしてしまうと、怒りや悲しみがどんどん内側でふくれあがっていきます。
それでも誰にも頼れず、ひとりで抱え込んでしまうことで、余裕を失い、つい子どもにその感情が向いてしまう——。
でも本来、育児は“孤独に戦うもの”ではありません。
追い詰められているのは、あなたの心が限界を超えているサイン。 「助けて」と声に出すことは、弱さではなく、“あなたと子どもを守る強さ”でもあるのです。
「虐待してしまうかも」と思ったときの3つの行動
1. とにかく“その場”を離れる
本当に手が出そうになったら、必ず子どもから一時的に距離を取ってください。
- トイレにこもる
- ベランダに出て深呼吸する
- ドア越しに「ちょっとだけ待っててね」と声をかける
自分の感情が「爆発直前」だと気づいたら、“離れる”という行動でブレーキをかけてください。
これは逃げではなく、**あなたと子どもを守るための“勇気ある行動”**です。
もし家の中に安全な場所があるなら、そこに移動して、自分が少しでも落ち着ける空間に身を置くことも効果的です。 例えば、寝室やお風呂場、玄関など、扉を閉められる空間で、数分間だけ目を閉じて深呼吸する。
また、感情の爆発を「物」に向けるのもひとつの方法です。 クッションをぎゅっと握る、大きく息を吐きながら壁を軽く押すなど、自分なりの“放出口”を決めておくことで、手が出る前のワンクッションになります。
そのほかにも、
- 「今は感情が高ぶっているだけ」「私は悪い母親じゃない」と心の中で唱える
- 玄関に貼った“落ち着く言葉”や写真を見つめる
- 冷たい水をゆっくり飲む
など、自分を鎮めるための“レスキュー行動”をあらかじめ決めておくと、いざというときにパニックにならずに済みます。
大切なのは、怒りを感じた瞬間に「ダメだ」と抑え込むのではなく、「一時停止して距離をとる」こと。 その行動一つで、虐待の一歩手前から、立ち戻ることができるのです。
2. 記録をとる
感情を可視化することで、自分の傾向がわかってきます。
“怒りが湧いた瞬間”を忘れずに記録しておくことで、後から冷静に自分の反応パターンを分析できるようになります。これは、自分自身を客観的に見つめる第一歩です。
たとえばこんなふうに書き出してみてください:
- 【日付・時間】 〇月〇日 午後7時半
- 【状況】 子どもがご飯を全く食べず、スマホを触りたがった
- 【自分の反応】「いい加減にしてよ!」と怒鳴ってしまった
- 【感情】 イライラ、不安、孤独
- 【その後の気づき】 自分が疲れていて、準備に気合を入れすぎていた
こうした記録が積み重なると、自分の「怒りの傾向」「原因になりやすい状況」「体調や環境との関係」が徐々に見えてきます。
また、「怒らずにやり過ごせた日」の記録も残すことで、自信と希望が積み重なっていきます。どちらの記録も、あなたの“育児と感情の軌跡”として大切な財産になるのです。
- どんなときに怒りが湧く?
- どんな言葉に反応する?
- 体調や睡眠との関係は?
簡単なメモやスマホのアプリなどで、自分の“心の波”を記録してみてください。 怒りのトリガーがわかると、「これは前にもあったから深呼吸しよう」と冷静に対応しやすくなります。
怒りの原因を探ることがポイント。書き出すことで、「何が原因」なのかわかってきます。
3. 誰かに話す
「虐待してしまいそう」と思ったことを、誰かに話すのはとても勇気がいることです。
でも、その気持ちを誰かと共有することで、心の中の“圧力”が少しずつ和らいでいきます。
話す相手は、身近な人でなくてもかまいません。むしろ、同じ経験をしてきた人や、専門的な立場から話を聴いてくれる人が理想です。
- ママ友(信頼できる人に限定して)
- 地域の子育て支援センターのスタッフ
- SNSの育児コミュニティやLINEのオープンチャット(匿名OK)
- 児童相談所の24時間相談窓口や自治体の母子サポート
“私はこんなことを思ってしまう母親です”と声に出すのは、とても勇気のいること。
でも、話した瞬間に「あ、私だけじゃなかった」と思えるだけで、孤独は少しずつ溶けていきます。
中には、「話したら、虐待と判断されて通報されるのでは?」と不安に思う方もいるかもしれません。
しかし、児童相談所の多くは“相談の段階で助けたい”という姿勢でサポートしてくれます。
あなたの声が誰かにつながることで、あなたも子どもも守られる——そんな未来が必ずあります。
でも、話した瞬間に「あ、私だけじゃなかった」と気づくことができます。
- ママ友
- 子育て支援センターのスタッフ
- SNSやLINEのオープンチャット
- 匿名の相談窓口(児童相談所や自治体のサポート窓口)
「もう無理かもしれない」と思った瞬間こそ、“言葉にして外に出す”ことで、思考と感情に少しだけ余白が生まれます。
根本的な解決には至らないかもしれません。しかし、ほんの1mmでもいい。心の余白が必要なのです。
4. 誰かの協力を得る
「一人で全部やろう」としていませんか?
子どもを育てることは、もともと“たった一人でやるもの”ではありません。
疲れ切ってしまう前に、「誰かの手を借りる」ことを選択肢の一つとして持ってください。
- 実家の母親や父親に少しの間だけ預ける
- 信頼できる友人に子どもをみてもらう
- ファミリーサポートセンターなど自治体の支援を利用する
- ベビーシッターや一時保育サービスを活用する
「母親なのに誰かを頼るなんて…」と思ってしまうかもしれません。
でも、それは“逃げ”ではなく、生活と心を立て直すための大切な手段です。
ただし、こうした一時的なサポートは、確かに“その場”の危機を回避してくれるかもしれません。
でも、本当に必要なのは、その先の「日常」を見直していくことです。
怒りが湧く背景には、家事・育児の負担、時間のなさ、睡眠不足、周囲の無理解など、いくつもの要因が複雑に絡んでいます。
「助けてもらっても、またすぐ同じことが起きる」——そんなループを抜けるためには、自分の毎日の暮らしを少しずつ整え、“怒りの出にくい環境”をつくっていく意識が必要です。
そのためにも、まずは「今のままじゃ苦しい」という気持ちを認め、頼れる制度や人を、積極的に“味方”にしていきましょう。
心を守るための習慣づくり
虐待を未然に防ぐためには、“感情のリセット”ができる習慣を日常に取り入れることが重要です。
✔ 朝起きたときに「今日、絶対に怒らない」と決めない
→ プレッシャーが逆効果になるため、「怒りそうはいになったら深呼吸する」と具体的な行動にしましょう。
「絶対に怒らない」と決めてしまうと、感情が湧いたときに「できなかった自分」を強く責めてしまうことがあります。
それよりも、「怒りそうなときにどう対処するか」に焦点を当てて、次のような“行動の切り替え”リストを用意しておくと安心です:
- 深呼吸を3回する(鼻から吸って、口からゆっくり吐く)
- 子どもから一歩離れる(別の部屋に行く)
- 静かな音楽や自然音をかける
- 手をぎゅっと握ってから、ゆっくり開く
- “いま怒っている自分”を否定せず、「これは一時的」と心の中でつぶやく
“怒りを抑えよう”とするよりも、“怒りに気づいて対処しよう”という視点が、自分を守る力になります。
あらかじめ「こうなったらこうする」と行動をパターン化しておくことで、突発的なイライラにも対応しやすくなります。
✔ ご飯をつくるのがつらい日は「市販でもOK」と自分に言っていい
→ 無理して頑張り続けることが美徳ではありません。
忙しい日、疲れて何も作る気が起きない日、市販の冷凍食品やレトルトに頼ることは決して悪いことではありません。 「栄養バランス」や「手作り」にこだわりすぎて、自分が疲弊してしまっては本末転倒です。
むしろ、“温かい食事が出ること”自体がすでに素晴らしいことなのです。 「今日は買ってきたお弁当でいい」と、自分に許す日を作ることで、長い目で見たときに家族もあなたも安定していきます。
子供の習い事も、保育園だって1日ぐらい休んでも大丈夫。この状態がずっと続くよりは「今日は休む」とメリハリをつけてあげてください。
✔ 「今日できたこと」を1日1つ書き出す
→ 「〇〇した私、えらい」と自分に声をかける習慣は、心を守る基盤になります。
子どもを無事に送り出せた、怒らずに1つ返事できた、寝る前に絵本が読めた——どんなに小さなことでも、立派な「できたこと」です。
自分に“やれてるよ”と声をかけることは、自己肯定感の回復につながります。
たとえばこんな「できたこと」が毎日あります:
- 朝、5分だけでも子どもと笑顔で会話した
- 大声を出しそうになって、ギリギリでこらえた
- 子どもの話を最後まで聞けた
- 夕方まで怒らずに過ごせた
- 子どもが寝たあとに1人でお茶を飲めた
このように「できていること」は本当はたくさんあるのです。
夜、眠る前にスマホのメモに1つ書くだけでも十分です。 それが毎日の心の支えとなり、次の日のあなたを優しく後押ししてくれるはずです。
この状態の時は育児本もおすすめしません。筆者も余裕がなくり「限界」を迎えていたのに、変わろうとし続けて育児本を読んでは「できない自分」を責め続けていました。
できない自分を責めないこと。この記事を読んでいるお母さんには、休息も優しさも必要。これ以上の頑張りはいいんです。少し楽になる事が、虐待を踏みとどまるために必要な事です。

おわりに|あなたは今、“踏みとどまっている”
あなたがこの記事を最後まで読んでくれたということ。
それは、今の自分を変えたいと思っている証拠です。
「怖い」「苦しい」「もう逃げたい」——そんな思いがある中で、言葉を拾い集めながら前を向こうとしているあなたは、すでに“自分も、子どもも、守ろうとしている人”です。
踏みとどまったその一瞬に、どうか気づいてください。
あなたは、ちゃんと頑張ってきた。
そして、これからも、大丈夫です。
「虐待してしまいそう」
その言葉が頭をよぎったとき、あなたはもう既に、誰かを傷つけたくないという“愛情”の中にいます。
その一線を越えずに踏みとどまっている。 それは、とても大きな勇気であり、強さです。
どうか今の自分を「弱い」「ダメ」と責めないでください。
あなたは、すでに“止まる力”を持っている。 それを自覚することで、きっとこれからの関係も、自分自身の心も、変えていけるはずです。
子どもを育てるということは、理屈やマニュアルだけでは片付けられないことの連続です。 でも、「今日も踏みとどまれた」と胸を張っていいのです。
あなたは、今日もちゃんとお母さんでした。 そして、これからも大丈夫です。